素行の悪さとスキャンダルのためにパナマに左遷される英国スパイ、アンディ・オスナードを演じるのは5代目ジェームズ・ボンドだったピアース・ブロスナン。これが蹴っ飛ばしたくなるようなサイテーの色男でした。
パナマで仕立て屋を営む英国人ハリー・ペンデルを演じるのが「シャイン」の主演俳優ジェフリー・ラッシュ。不良スパイのアンディは、パナマでの情報収集のために仕立て屋ハリーを利用しようと近づき、彼の秘密を周囲にばらすと脅して協力させるのですが、このハリーもアンディを利用しようと嘘の情報を流します。こうして架空の反政府組織の情報がMI6の上層部に伝わると「これは使える!」ということになり、話はどんどん大きくなっていきます。
ジョン・ル・カレ原作ということで、綿密な人物描写、重厚な雰囲気を期待したら、全く予想外れで、スパイものの定番であるお色気&かなり安上がりなカーチェースを盛り込んだ活劇でした。パナマの夜の街、場末のホテルとそこにたむろする女性や、仕立て屋ハリーの毎日の生活はかなり丁寧に描かれ、アンディに振り回されるハリーの不安な心情をこと細かに追うのですが、騙す相手が登場人物だけなのか、観客も巻き込むのか、整理がつかないままに話が進み、そのあたりももう少し工夫がほしいところ。
一方、スパイ娯楽映画の常道を踏みすぎたところもあり、キャサリン・マコーマック扮する英国大使館員フランチェスカが登場したとき、誰だって「今回はこれがお相手の女性だろう」と思ったのではないでしょうか。展開がベタすぎますね。仕事と趣味の両面から女性を口説き落とせるのが、スパイ稼業の醍醐味なんでしょうが、見飽きたパターンです。
悪口ばかり並べてしまいましたが、仕立て屋ハリーの演技には引き込まれました。また、良心のカケラもない諜報員アンディの徹底した悪人ぶりが、だんだん面白く思えてきました。
嘘と打算の世界が膨れ上がる過程を丁寧に描ききったとはいえませんが、仕立て屋ハリーと妻の苦悩はよく描かれていました。
ハリーの心の中にしかいないはずのベニーおじさんが突如現れてアドバイスするところや、ガセネタに踊らされるペンタゴンの面々など、けっこう笑えるところもありました。
その他話題としては、ノーベル賞を受賞した英国の劇作家ハロルド・ピンターがベニーおじさんの役を、ダニエル・ラドクリフが仕立て屋ハリーの息子役で登場したこと。映画を見ているときは全く気づかず、後で調べてびっくりしました。


