2009年10月23日

近藤ようこ「天王寺、参る」

「借りた本を返さないヤツは許せん!」と思っている人、大事な本を人に貸したらそのまま帰ってこなかった人…はたくさんいると思います。
自分は20代ぐらいまでは特に、極めていい加減な人間だったで、借りっぱなしの本をそのまま何年も返さないということが多々ありました。

しかしついそのツケが回ってくる日が来て、職場の年下の同僚に貸したマンガの単行本を返してもらわないうちにその職場を辞め、その後引越して彼女と音信不通になりました。そのときは、読み終わったマンガだからべつにいいかと思っていたのですが、最近ふとまた読みたくなり、古本で買おうと思ったら、法外な価格がついているではありませんか!!

その単行本とは、近藤ようこの短編マンガ集「仮想恋愛」です。出版社は確か青林堂で、今後も再発売の予定はないようです。(関係ありませんが、マンガを貸した元同僚の旧姓も近藤です)
自分は過去に自分がよそ様に対してどんな迷惑をかけていたか思い知ったわけですが、そんなことは棚に上げて、「こら近藤、マンガ返せ」と叫びたくなりました。近藤(あえて呼び捨てにしよう)は私からこのようなマンガを借りるだけのことはあって、相当マニアックなマンガの好きな人物でした。彼女から借りたマンガ単行本の中にはスプラッター系少女マンガだの、かなり過激なものがありましたが、私はそれほどコアなマンガ読者ではなかったので、何を借りたか記憶はありません。あるとき近藤に、「近藤ようこのマンガ、そろそろ返して」と言ったら、近藤は「へへへ」と笑ってごまかしました。絶対読み終わっていたはずなのに! しかし自分にはそれほどマンガの単行本に執着はなかったので、しつこく「返せ」と迫ることはありませんでした。

この単行本の中で読みたかったのは、「天王寺、参る」という短編です。他にもいい作品はありましたが、それほど印象に残らないものもあったと記憶しています。しかし、「天王寺、参る」は傑出していました。演劇でも取り上げられる身毒丸とその継母が登場する話です。絵はシンプルで上手いとは言いがたいのですが、現代から中世日本にタイムスリップするような展開に不自然さがなく、構成が抜群だと思います。

そこで、このマンガが掲載された雑誌の「マンガ奇想天外」を探すことにしました。この雑誌は基本的にSFマンガ専門だったようですが、あまりSFと関係ないマンガもいろいろあります。大友克洋はSFものを書いていましたが、彼の作品としてはそれほど面白いと思いません。
さらに他のマンガ家の名前を見れば、この雑誌の充実振りが分かると思います。

このマンガ奇想天外をネット・オークションで3冊(5,6,7号)まとめて落札しました。こうして「天王寺、参る」を読み返すことができました。その作品の前に、若かりし頃の高橋留美子と近藤ようこの対談が載っていました。ご存知の人もいるでしょうが、この二人はクラスメートで親友だそうです。

雑誌を読んで、「あれ?」と思いました。その対談を読んだ記憶があるのです。

そして実家にこの雑誌があるかどうか探したら、ありました…
アホですね、自分が大昔買ったことを忘れていました。その雑誌で読んで気に入ったから、近藤ようこの単行本を買うことにしたわけです。完全に記憶から消えていました。

というわけで、すっかり変色した同じ雑誌が2冊、現在自分の手元にあります。どなたか読みませんかね??

自分はその後近藤ようこの作品を全く読んでいません。興味がなかったわけではありません。あるとき、自分が本屋に行ってマンガを立ち読みしようとしたら、ほぼ全てのマンガがビニールで密封され、読めなくなっていました。その頃からマンガから遠ざかってしまいました。

最近になって彼女の「水鏡綺譚」を買いました。絵はうまくなっていますが、動物はそれほどよく書けていると思いません。歴史ものを手がけるマンガ家で彼女より人気のある人はたくさんいるようです。
しかし彼女は、ヒューマニズムと残虐性の間を縫うような描写が非常に印象的なので、若干の凡作は混じっても読みがいのあるマンガ家です。ただし好みはかなり分かれるかもしれません。

彼女も素晴らしいマンガ家ですが、同様にすごい作品を書く作家がマンガ奇想天外に多数名を連ねています。80年代前半のマンガに70年代のアングラ的マンガの影響がかなり残っているのも興味深いので、こうした雑誌の拾い読みもなかなか楽しいです。
posted by ring-rie at 02:26| Comment(8) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは〜。
近藤ようこって、私の大学の先輩なんです。つぶれかけていた漫研を復活させた方で、部の同人誌に載せるために、その当時のことや漫画家生活についてインタビューさせてもらったことがあります。その時に、他の方が言ってらっしゃったのですが、とにかく、作品を作るペースが普通じゃなかったそうです。押さえがたい創作衝動のすさまじさ。その時、私はプロになる人の力量というのは常人とは全然違うんだってことを知りました。それは、絵が巧いとか、プロットがおもしろいとか、そんなレベルのものではなかったようです。
 でも、お恥ずかしながら、私は近藤ようこの作品は一つも読んでないんです…。私って、メジャー誌しか読んでなかったので、近藤さんの作品に出会う機会がなかったようです。その上、結婚してからはマンガは遠い存在になってしまったみたいで…。
確かに、ビニールにくるまれてしまうと、中が見えないからどれを買ったらいいのか分からないんですよね。私もそれで戸惑った覚えがあります。
Posted by モグ at 2009年10月23日 15:29
こんにちは!
なんと、近藤ようこ、モグさんの先輩ですか。すごいなあ。ビッグネームだわ。私の周りは彼女のファンが多いです。貴重なお話が聞けました。ただ、私自身は、面白いと思うんだけど、少し、怖いです…。
スプラッタな表現が多いからというワケではなく(いや、そうゆうのもありましたが)「女の情念」みたいなのが、怖いのです…。多分、そういう表現が素晴らしく上手な方なんだと思います。

私も単行本は持ってなくて、いくつか雑誌で読んだだけなので、タイトルとかはわかりませんが、中世ものと不倫ものをぼんやりと覚えています。
たとえば、同じ「首が取れる」シーンを描いても(うげげ)杉浦日向子の場合は、椿の花が落ちるような不思議な「諦め」を感じるのです。それは表現が植物的だからというわけではなくて、確かに人間の鮮血を感じるんだけど、その鮮血そのものが無常感に溢れているので怖くない、というか。
その点、近藤さんの同じシーンは「体温」が伝わってくるのです。だから怖い。どうしてかはわからないんですけど。同じように端正な画風で、好きなんだけど。近藤ようこは、最後まで「生」を諦めない。そんな気がする。

何を書いているのかわからなくなってしまいました(いつも通り)。
まあとにかく私は近藤ようこに対して畏怖と敬意を感じているというわけですね。敬して遠ざくって奴です。あ、これ孔子の鬼神に対する接し方ですね(笑)

それにしても、雑誌のメンバー、豪華ですね!ring-rieさんのおっしゃる通り、あの頃のマンガは70年代の革命性と80年代初頭のセンシティブさがうまいぐあいに融合した傑作が多いと思います。中には変な風に融合しちゃったキメラ的なのもあるけど、いい時代だったと思います。
Posted by ショコポチ at 2009年10月23日 16:40
しつこくすいません。seesaaにコメント修正機能があるといいんですけどね(お互い)。
何が言いたかったのかいま自分で読み返してみて、要するにこう言いたかったんだと思います。
杉浦日向子の春画はエロくないけど、近藤ようこのはエロい。
だから素晴らしくて、恥ずかしくて怖い。
そうゆうことだと思います。
Posted by ショコポチ at 2009年10月23日 16:46
僕は大友克洋と松本零士しか知りません。
と思ったら、僕が4歳の頃の雑誌じゃないですか、さすがにその頃は漫画じゃなくて絵本ですね。

ちなみに、漫画は成人してから全く読まなくなったのでことごとく処分してしまいましたが、大友克洋の「AKIRA」は保管してあります。ちょっと前にカラー版が出た時は食指が動きかけたのですが・・・
Posted by くうたれ at 2009年10月24日 01:36
モグさん、こんばんは。

>私の大学の先輩
ああ、やっぱりそうでしたか。あらためて彼女の経歴を調べて、たぶんそうなるのではと思っていました。すごく羨ましいです、インタビューできたなんて、いいなあ。

>押さえがたい創作衝動のすさまじさ。
そうなんですか、やはりプロでやっていこうという人は、そこが違いますね。彼女の初期の作品には、絵はあっさり目なのに、異様なエネルギーを感じます。

>近藤さんの作品に出会う機会がなかった
確かにメジャーなところでは一つも出てなかったような…かなりやばい筋(?)でも書いてましたね。私も偶然出会いました。急所を一発で押さえられたような感じで捕まってしまいましたが、その割りにファンとまで行かずに日々が過ぎてしまいました。

>私もそれで戸惑った覚えがあります。
そうなんですよ。タダ読みされたくないからそうなったんでしょうけど、あれはショックでした。立ち読みができなくなって、同人誌読まず、ネットもない時代だから、情報が切れてしまいました。
さらに私は子どもに読ませられないものばかり読んでいましたし…離れざるを得ませんでした(苦笑)
Posted by ring-rie at 2009年10月25日 00:19
ショコポチさん、こんばんは。

ネット検索ではそれほど大量の情報が拾えないのですが、近藤ようこの隠れファンはけっこういるのでしょうね。

>「女の情念」みたいなのが、怖いのです…。多分、そういう表現が素晴らしく上手な方なんだと思います。

まさにそこなんですよ、彼女のすごいところは。昔読んだ河野多恵子の小説に近いかな。まあ、スゴ腕の女性作家の嗅覚みたいなのを、彼女も持ってますね。だから怖いんです。日々の生活と両立できる狂気というのか、壊れかけていて、したたかというのか、何を言ってんだかわかんなくなってますが、あの印象を羅列するとそうなります。しかし、「やられた」と思った自分には、何か身に覚えがあったのしょうね。

>その鮮血そのものが無常感に溢れているので怖くない、というか。
久々に杉浦日向子に読みたくなりました。

>近藤ようこは、最後まで「生」を諦めない。そんな気がする。
それって私が上で羅列した印象に通じるところがあるような気がします。
自分の印象では、異常な偏愛もエロティシズムも妄想も日々の生活も、同じ体内で共存していて、本人はさほどの危機感もないような女性を描くのがうまいのでは? 悩んでいる女性より、悩んでないから怖い女性を。でもそれはこれから彼女のマンガを読んで確かめます。

>中には変な風に融合しちゃったキメラ的なのもあるけど、いい時代だったと思います。

確かに、あまり頂けない融合もあったかな。サブカルチャーがまだ貧乏人と学生と一部の知識人の儲からない楽しみだった時代ですね。
あの雑誌は今読み返すと並んでいる固有名詞だけでもテンション上がります。でも、全然知らない人で、すごくうまいマンガ家がいたのに気づいたり、絵がうまいわりには空回りしている人がいたり、今読んで再発見することがけっこうあります。橋本治の「あしたのジョー」研究もありました。彼の名前を見て、ああ、そんな時代だったなあと思い出します。今読んでその魅力にやられそうになっているのは鈴木翁二。調べてみるとガロ系らしいです。ほんと、70年代系のすごい色が出てます。案外いい時代だったんですね。

>杉浦日向子の春画はエロくないけど、近藤ようこのはエロい。
>だから素晴らしくて、恥ずかしくて怖い。

そうか、杉浦さんはそんなに踏み込んでいましたか。すみません、話を混乱させるツッコミを入れてはいけませんね。
近藤ようこのエロいのは、私の個人的意見では、身に覚えがあるから、すごく恥ずかしいのです。詳細は違うんですけど…何が違うのか説明できませんけど…でも確かに「やめてくれ〜」と叫びたくなりそうな部分があって、あれは困りますね。
Posted by ring-rie at 2009年10月25日 01:28
ショコポチさんへ、追伸。
文字数の多いコメントは大歓迎です。
私も書きすぎるほうで、書いているうちに自分の言いたいことが見えてくる場合もあります。
自分はいつも脱線コメント書いてそのまま投稿してますので、ちょっといかんなあと思ってます。
なので、いっぱい書いて頂くのはほっとします。お時間あればなるべく長く書いてくださいませ。楽しみにしています。
Posted by ring-rie at 2009年10月25日 01:39
くうたれさん、こんばんは。

>僕が4歳の頃
かなりびっくりしました。そうなんだ。
そんなに昔だとは実感してないもので、ついつい話が通じるものと思っていました。でも、大友克洋はお好きなんですね。彼のマンガが登場したときの衝撃は忘れられません。その後彼の画風に影響された人が続出しました。ストーリーもユーモアも全て大好きでした。

>大友克洋の「AKIRA」は保管してあります。
あれは集大成的作品でもありましたね。「童夢」の次の大仕事でした。久々に読みたいけど、話が重いんで、なかなか読み返せないです。
自分は「Short Peace」「さようならにっぽん」が好きです。短編も粒ぞろいです。
Posted by ring-rie at 2009年10月25日 01:57
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