ブログを放置していると、キワモノっぽい広告がリンクされているのにも気づきませんでした。ちゃんと管理しなくては。
最近LPを購入した、Don Rendell/ Ian Carr : Phase III (1967) について、Way Out West誌に掲載された短い再発盤紹介の補足のようなことを書きます。
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Don Rendell/ Ian Carr : Phase III
昨年5LPボックスの1部としてもリリースされたドン・レンデル&イアン・カー・クインテットの68年作。
当時「詩人とジャズ」をテーマに活動したマイケル・ガーリック(p)が、詩人イェーツを題材にした曲の”Crazy Jane”でユーモアたっぷりに弾けている。パーカッシヴな演奏がアンドリュー・ヒルを彷彿とさせる。
エキゾチックな最終曲は謎めいた魅力に満ち、レンデルのソプラノサックスソロが妖しく輝いている。
当時、英国ジャズグループが世界的に注目を集めることはなかったようだ。
イアン・カーについてはその後ジャズロックファンが注目したので、彼の情報は目にしたが、
このクインテットについても、マイケル・ガーリックというピアニストも、自分は全く知らなかった。
マイケル・ガーリックはこのクインテットのセカンドアルバムから加入し、その後のグループの作風の変化に大きく関わっていく。

おそらく、一部のジャズファンには知られていたものの、このクインテットは特に有名ではなかったのだと思う。
だが、レア盤愛好家が彼らのレコード盤の値段を釣り上げたのが始まりかもしれないが、
ドン・レンデル&イアン・カー・クインテットの5LPボックスがリマスターされて発売されると、即完売してしまったという。
発売部数が少なかったからかもしれないが、それにしても、バカ売れという印象がある。
その後LPはバラ売りされることになり、自分もユニオンに予約して、このアルバムと、「Shades of Blue」を購入した。
発売日をだいぶ過ぎてからレコードは届いた。
配達されたLPジャケを眺めて嬉しくなったが、肝心の録音については、「こんなものなんだろうか?」というのが正直な印象だ。
何がどうリマスターされたのか、原盤と比べようもないのだけれど…
それはとにかく、このクインテットの魅力は傑出しているので、演奏内容についてもう少し書きます。
パーソネル:
Don Rendell ドン・レンデル(tenor saxophone, soprano saxophone, flute)
Ian Carr イアン・カー(trumpet, flugelhorn)
Michael Garrick マイケル・ガーリック(piano)
Dave Green デイヴ・グリーン(bass)
Trevor Tomkins トレヴァー・トムキンス(drums)
<収録曲>
1.Crazy Jane(Carr)
2.On!(Rendell)
3.Neiges d'Antan [Snows of Yesteryear](Carr)
4.Bath Sheba(Rendell)
5.Black Marigolds(Garrick)
このアルバムの重要な要素に、ガーリックも、カーも、文学が大好きで、詩人に大きな影響を受けている点がある。
レンデルはどうもそういうタイプではなかったようだ。
本作と「詩」の関係について書くと
本アルバムではイアン・カーによる2曲は両方とも詩を題材にしたもの。
⒈「クレイジー・ジェーン」はイェーツの詩に登場する人物だという。訳詞をいくつか読むと、かなり大胆であけすけな発言をする女性のようだ。それを表現するかのような、ガーリックのピアノの暴れ方が面白い。サックスの役柄は、詩に登場する、嫌味な説教をする司祭だろうか? などと空想すると面白い。
⒊「Neiges d'Antan [Snows of Yesteryear]」は、15世紀の詩人、フランソワ・ヴィヨンの詩の一節から。移ろいやすい女性の美しさを嘆く詩だという。
混合拍子の複雑な曲は、壮大な交響楽のように始まる。(この曲の拍子については、レコード裏に説明がある。)
⒌アルバム最終のマイケル・ガーリックの曲「ブラック・マリーゴールズ」は、
カシミールの詩人、ビルハナの恋愛詩集 『チャウラ・パンチャーシカ』の訳詩の序文につけられた「物語の最後は披露宴かと思ったら、そこにあったのは、言わば、黒いマリゴールドの花と沈黙」という一文をヒントにしているらしい。
(レコード裏に印刷されたガーリックの言葉を調べると、だいたいそういうことらしい。「伝説では、ビルハナがとある王女と恋愛をし、国王によって交際を禁じられた体験をもとに詠んだとされる」とウィキに載っている。伝説の細部は地域により異なるそうだ)
オリエンタリズムを感じる謎めいた作風。一部ウェイン・ショーターっぽい。
このアルバムのジャケットの裏に、イアン・カーやマイケル・ガーリックの曲解説が載っている。解説というより、インタビューに答えているだけの、かなりいい加減なものだが、これがけっこう面白い。
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参考にしたネット上の題材:
☆下記のページに英文での本アルバム紹介があり、ジャケット裏の画像もあります。
https://londonjazzcollector.wordpress.com/2017/04/10/don-rendell-ian-carr-phase-iii-1967-emi-lansdowne/
☆本作について一番分かりやすく参考になったネットのは、トランペッターで横浜ジャム音楽学院講師、深井 一也氏の記事。(ブログに署名はないが、リンク先を見ると彼のようです)
アルバムのレコード裏に載っている解説をブログに紹介し、1曲目のカーの曲がイェーツの詩に基づいていることも紹介されていました。
http://e-deep.org/iblog/C244498683/E264913232/index.html
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最後に、本作のピアニスト、マイケル・ガーリックについて書いておきます
マイケル・ガーリック(1933〜2011年)
ウィキ英語版によれば、ロンドン大学に通い、クラシックを学びながらジャズに目覚めたガーリックは、70年代までは独学でジャズを学んだという。レンデル&カーや自己のグループでの活動の後にボストンのバークリーで学んだ。
彼が米国のジャズをどれだけ聴いていたかは分からない。しかし、クラシックのレッスンを受ける弟子たちの発表会でグレン・ミラーのIn The Moodを弾き、教室から追いだされたというエピソードから、彼のジャズ熱の高まりが十分感じられる。
大学卒業後ガーリックは『詩とジャズ』をテーマに、詩の朗読とジャズ演奏を合わせたイベントの音楽監督となり、イギリスやアイルランドの詩人たちと交流し、ともにステージに立っていたようだ。この活動での評価がレンデル&カー・クインテットの参加につながったという。
また、ジャズとコーラスを合わせた演奏企画に取り組んだ。彼の名前を広めたのはこの活動だったという。1967年に始まるこの活動はその後も続き、交響楽団とノーマ・ウィンストンとの共演作など、興味深い作品を生むことになった。
音楽教育者としても熱心で、ロイヤル・アカデミーその他の教師として活躍した。
彼のレーベルJazz Academy Recordsを設立し、自己のグループやノーマ・ウィンストンのアルバムなどをリリースした。
晩年にも積極的な音楽活動をしていたが、数年間患っていた心臓病で2011年に他界した。
(以上です) 2019年8月14日